外出自粛で集まって遊ぶのも難しい昨今。そこで、自粛前から気になって予約してた一人用ゲーム、『ザ・ネゴシエーター ~人質交渉人~』を遊んだので、そのファーストインプレッションをご紹介!
『ザ・ネゴシエーター ~人質交渉人~』とは?
ゲーム概要
- ゲームデザイナー:A. J. Porfirio
- イラストレーター:Kristi Kirisberg, Venessa Kelley, Chase Williams
- パブリッシャー:アークライト(日本語版)、Van Rider Games(原語版)
- 発売年:2020年(日本語版)、2015年(原語版)
- プレイ人数:1人専用
- プレイ時間:15〜30分
- 対象年齢:15才〜
『ザ・ネゴシエーター ~人質交渉人~』(原題:Hostage Negotiator)は、人質事件に立ち向かう交渉人となり、犯人を説得し、人質となった無辜の人々を救出し、最終的には犯人の確保(または射殺)を目指す一人プレイ専用のボードゲームです。
〝交渉人〟は日本ではあまり馴染みがない、あってもドラマや映画の中だけというイメージですが、アメリカでは人質篭城事件の平和的解決に古くから貢献している重要な存在。心理学や犯罪学などの専門的知識を基盤とした〝会話術〟を用いて犯人と戦います。アメリカでは警察等に多くの専門チームが存在しますし、日本でも2005年から専門の人が置かれてるそうですよ(Wikipediaより)。
実は私はこの交渉人という題材が結構好きです。もともと〝謎〟に挑むミステリや推理もの(ドラマの「相棒」やアニメの「氷菓」「サイコパス」など)が好きなのですが、普通は「事件後に証言や証拠から推理する」のに対して、交渉人は「現在起きている事件に対して犯人と会話しながらリアルタイムに推理していく」という緊迫感のある設定になるのがいいんですよね。刻々と変わる状況の中、言葉巧みに犯人から言葉を引き出していくのは〝交渉人〟という題材ならではの楽しさだと思ってます。マイナー?ですけどPSPの『銃声とダイヤモンド』という交渉人が主人公のゲームも好きでした。ゲームだと珍しい題材ですけど面白かったなあ。
……と、だいぶ無駄話が長くなりましたが、肝心のボードゲームの紹介に移りましょう。
前述の通り、このゲームではプレイヤーは交渉人(ネゴシエーター)となり、人質事件の解決を目指します。ここでいう解決とは、人質を救出するだけでなく、犯人を確保(投降)または射殺することも求められます。犯人を取り逃すと再び犯行を繰り返すかもしれませんからね。
ゲームに用いるのは1枚のボードといくつかのコマ、多くのカードとダイス(サイコロ)です。
状況ボードには犯人の「感情レベル」を示すインジケーターと現在の「会話ポイント」の記録場所、そして「人質の監禁状況」を示す場所があります。
「感情レベル」はこのゲームで非常に重要な数値で、犯人の感情の昂り度合いを表しています。0〜7の8段階あり、最低値の0には「SAVE」を表す「S」が、最大値の7には「KILL」を表す「K」が書かれています。この感情レベルは主に交渉人であるプレイヤーの説得(会話)によって増減します。多くの場合、上手く説得できれば感情レベルを下げる(落ち着かせる)ことができ、失敗すれば感情レベルを上げる(興奮させる)ことになります。
上手く説得し、感情レベルを「S」まで下げ、さらに感情レベルを下げるようなことができれば、犯人は人質を解放してくれます。ただし、逆に感情レベルが「K」まで上がり、さらに感情レベルが上がる事態になると、犯人は激昂して人質を殺害してしまいます。
さらに、この感情レベルは説得の成功率にも関わります。後述する説得ではダイスを振って成否を判定することになりますが、感情レベルによって振れるダイスの数が変わります。通常時(感情レベルが2〜6の時)は2個のダイスを振りますが、犯人を落ち着かせて感情レベルを「1」以下まで下げると3個のダイスを振ることができ、説得の成功率が上がります。一方、犯人が興奮し、感情レベルが「K」になるとダイスが1個しか振れなくなります。犯人との交渉を上手く進めるためには、犯人の感情をコントロールすることが重要なわけです。
「会話ポイント」は犯人とやり取りするための「会話カード」を獲得するためのコストになるものです。これも犯人との会話の中で増減し、最大は12、最低は-4です。マイナス値にもなります。イメージとしては犯人と様々な会話をする(会話ポイントを貯める)ことでより踏み込んだ会話やアクションをするキッカケ(高コストの会話カード)を得る、という感じでしょうか。
ボード上には人質の監禁状況も示されます。ゲーム開始時は全ての人質が「監禁場所」にいますが、人質を救出したり解放されたりすれば「避難場所」に移動し、逆に殺害されると「死亡」の場所に移動します。
このゲームのクリア条件は、
- 人質の半数以上を救出し、
- 監禁場所に人質が残っていない状況で、
- 犯人を確保(投降)、または射殺する
ことです。これができずに犯人に逃げられたり、半数を超える人質が死亡するとゲームオーバーとなります。監禁場所に人質が残っている限り犯人は投降することはありませんし、人質がいる時に射殺すると人質の中から共犯者が現れたりします。とにかく人質がいない状況にしないことにはクリアはできないというわけです。
カードには、その時の事件の犯人を表す「犯人カード」、犯人の要求を表す「要求カード」、時間とともに変化する状況を表す「イベントカード」、そしてプレイヤーが説得のためにプレイする「会話カード」があります。
プレイヤーがゲーム中に何度も使用するのが「会話カード」です。交渉人であるプレイヤーはこの会話カードをプレイして犯人を説得することで事件を解決に導きます。
会話カードをプレイしたら、プレイヤーは前述した感情レベルに応じた数のダイスを振ります。ダイスは一般的な六面体で、5と6の面には成功を表す警察バッジのマーク、4の面には手札を2枚捨てれば成功(捨てない場合は失敗)になるカードのマークが描かれ、残りは何も描かれていない失敗の面になっています。
会話カードをプレイしてダイスを振ったら、成功の数を数えます。各会話カードの真ん中には成功数によってどんな結果(効果)になるかが3つの欄で示されており、上の欄は2個以上の成功が出た場合、真ん中は1個のみ成功、下は失敗(1個も成功が出ない)の場合の効果になります。
効果のほとんどはアイコンで示されていて、感情レベルの増減や会話ポイントの増減の他、人質の救出(緑のシルエット)や人質の死亡(赤いドクロ)も起こり得ます。また、会話カードは手札にあればプレイにコスト等は必要なく1ラウンドの間に何枚でもプレイできますが、効果の中には会話カードをプレイする説得フェイズ(詳細は後述)が強制終了してしまうこともあります。犯人との会話に失敗して電話を切られたりするわけですね。
会話カードは最初から場に全て表向きでオープンになっており、全てのカードから自由に選んで取得することができます。ただし、取得にはカードの右下に書かれたコストの数だけの会話ポイントが必要です(初期手札のカードはコスト0で取得できます)。また、コスト0〜3までの各カードは2枚ずつ、コスト4以上は1枚ずつしかなく、会話ポイントがあっても同じカードを大量に集めることはできません。プレイしたり捨て札にしたカードはそのラウンド中は取得できませんが、次のラウンドでは場に戻り、再びコストを払えば取得できます。
当然高コストのカードは大きな効果を持っており、特に7コストの『スナイパー、撃て!』と8コストの『今だ!突入しろ!!』は、ゲームのクリア条件にも関わる犯人を射殺する効果を持ってます。射殺はこのカードでしか行えないため、重要なカードですね。
ちなみにカードに下側に書かれたセリフはフレーバーテキスト(雰囲気作りのための言葉)です。フレーバーテキストを読みながらプレイするとよりゲームの世界観に没入できていいですよ。
「犯人カード」はプレイするたびに選ぶ、その人質事件の犯人です。このセットでは3人の犯人が用意されています。犯人ごとに人質の数や初期の感情レベルが異なる他、特殊ルールが適用される犯人もいますので、プレイする犯人によって違ったゲーム展開が楽しめます。また、カードには犯人の背景設定や人質事件を起こした理由なども書かれてますので、ゲーム開始前に内容を読んでゲーム中に犯人とのやり取りをイメージしながら遊ぶのがオススメです。
「要求カード」はこの人質事件によって得たい犯人の要求です。要求カードには2種類あり、1つは犯人ごとに違う「主目的」、もう1つは共通の「逃走手段」の要求です。どちらも数種類からランダムで選ばれることになるので、同じ犯人でもプレイ毎に違った要求が出てくることがあります。
この要求は最初は伏せられており、プレイヤーの説得によって犯人は要求を明かしてきます。要求を聞くことは重要で、後述する「イベント」では未公開の要求があると感情が悪化するなど、より悪い影響(副次的効果)が起きる場合があります。犯人は何らかの要求をするために人質を取ったわけですから、要求を話せてないというのはストレスになるのでしょう。
また、公開された要求に対しては〝受け入れる〟という選択ができます。要求を受け入れることで犯人の譲歩を促そうというわけですね。受け入れた時のボーナスは要求によって異なりますが、例えば犯人が『武器の供給』という要求をしてきた場合、それを受け入れることで人質を1人解放させ、犯人の感情レベルを2点下げることができます。
ただし、犯人の要求は交渉人が自由に受け入れられるわけではありません。上司である危機管理官の許可が必要です。そのため、要求を受け入れるには危機管理官を説得するために会話ポイントを消費することが必要です。上記の『武器の供給』なら4会話ポイントが必要になります。犯人の説得だけじゃなく上司の説得も必要というのが世知辛さを感じさせますね……。
また、犯人の要求を受け入れることにはペナルティもあります。先の『武器の供給』の要求を受け入れた場合は、それ以降毎ラウンド感情レベルが2点悪化します。要求を受け入れられて一度落ち着いた気持ちも、武器を持つことで興奮しちゃうんでしょうね。そのため、安易に受け入れず必要かつ最適なタイミングで受け入れることが大事になります。
「イベントカード」は時間経過と変化する状況を表すカードです。ゲームの開始時にはランダムな11枚のイベントカードで伏せられた山を作り、毎ラウンドの終わりに1枚めくってはその効果を適用します。起きるイベントは様々で、犯人の感情レベルが悪化したり、新たな人質が捕らえられたり、追加の要求を出してきたりします。悪いイベントだけではなく、急に弱気になって人質を解放したりと、プレイヤーにとって良い展開になる場合もあります。
一部のイベントには「副次的効果」という灰色のボックスが描かれているものがあり(上図では右下のカード)、これは前述した「未公開の要求カードがある」場合に適用される効果です。この副次的効果によって人質を殺害しつつ感情レベルが悪化するなどより辛い展開となることがあります。これがあるため、要求は受け入れる気が無くても聞いておく意味があるわけですね。
また、このイベントカードは時間経過そのものも表していて、イベントカードが尽きてしまうと犯人は残った人質を殺害して逃亡してしまいます。このイベントカードの枚数がタイムリミットにもなるわけです。さらに、最後のイベントは「危機的状況」という特別なカードになっていて、最後はより困難な状況でのギリギリの交渉を迫られることになります。
ゲームの流れ
ゲームはラウンド制で、1ラウンドは以下の3つのフェイズからなります。
- 説得フェイズ
- 計画フェイズ
- イベントフェイズ
説得フェイズは、会話カードをプレイして犯人に交渉をするフェイズです。プレイヤーは手札にある会話カードを自由にプレイできます。これは(説得フェイズが強制終了されない限りは)手札があれば好きなだけプレイ可能です。
会話カードをプレイしたら交渉ロールを行います。感情レベルに応じたダイスを振り、成功数に応じた結果を処理します。ダイスは5と6の面(警察バッジのアイコン)が成功ですが、ダイスが4の面(カードのアイコン)を示した場合は手札の会話カードを2枚捨てることで成功扱いにできます。
また、手札の会話カードをプレイせずに直接捨て札にすることで、1枚につき1会話ポイントを得ることもできます。会話ポイントが手に入るカードは意外と少ないので、時には重要な行動になりそうです。
プレイしたい会話カードが無くなるか効果で強制終了になった場合、次の計画フェイズに移ります。
計画フェイズでは新たな会話カードを取得します。先の説得フェイズで入手した会話ポイントを払って場に置いてある会話カードを好きなだけ取ることができます。ただし、このラウンドでプレイした/捨て札にした会話カードは取得できません。それらのカードはこの計画フェイズの終わりに場に戻り、次のラウンドの計画フェイズで取得できるようになります。
カードの取得が終わったら、会話ポイントが0にリセットされます。次のラウンドに残すことはできません。なので、高コストのカードを取りたければ1回の説得フェイズで多くの会話ポイントを集める必要がありますね。逆に会話ポイントがマイナスになっていてもこのタイミングで0にリセットされます。
最後はイベントフェイズ。イベントカードの山から1枚めくって、カードに示された効果を適用します。灰色の副次的効果があり、未公開の要求カードがある場合はその効果も適用されます。
イベントカードの処理が終わったら1ラウンドが終了、次のラウンドに移り各フェイズを繰り返していきます。そして以下の条件を全て満たしたらプレイヤーの勝利でゲームが終了します。
- 監禁場所に人質が残っていない
- 半数以上の人質が避難場所にいる(救出されている)
- 犯人を確保、または射殺する
犯人の確保は監禁場所に人質がいない状態で『人質解放』の効果が適用されると、犯人が投降し確保となります。犯人の射殺は前述のカードの効果によってのみ起こりえます。監禁場所に人質がいない状態で射殺すればそのままクリアとなりますが、人質が残っている状態で犯人を射殺すると、人質の中から1人が共犯者として出現します。共犯者は感情レベルが増加するたびに(Kで無くても)人質を殺害します。共犯者は射殺することができませんが、人質を全て解放すれば即座に投降します。
一方で、『半数を超える人質が死亡した』か『(何らかの効果で)犯人が逃亡した』場合は、その場でプレイヤーの敗北です。また、イベントカードの山が尽き、イベントフェイズでイベントカードが引けなかった時も時間切れで犯人が逃亡し、敗北になります。
最後のイベントは危機的状況になるため、それがめくられた次の説得フェイズが最後のラウンドになりますが、この最後の説得フェイズでは特殊なルールが適用されます。その説得フェイズ中に入手した会話ポイントを使用して、説得フェイズ中でも場にある会話カードを取得することができます。もちろんプレイ可能です。
この最後のギリギリの奮闘も含めて、勝利条件を満たせばゲームクリア、できなければプレイヤーの敗北となります。
Let’s Play!
※せっかくのテーマなので、ゲーム中に筆者が妄想していた交渉人っぽいやり取りの文章でプレイレポートをお送りします。実際の交渉人は知らないのでそれっぽい雰囲気だけです。
俺は交渉人——ネゴシエーターのもっぷ。滅多に起こることはない……しかし起きれば大変な惨事を招きかねない、人質事件のために日夜訓練を積んできた。
そして、ついに事件は起きた。俺は急いで対策本部へと駆けつけた。
上司である危機管理官の説明によると、今回の犯人はテロ組織のリーダーであるアルケイン・マソー。7人の政府官僚を人質に建物に立てこもっているようだ。どうやら少し前に我々の特殊部隊が彼の不在中にアジトに奇襲を行い多くの構成員を捕えたらしく、その怒りと報復からの行動だろう、とのことだ。
まだ要求は出ていないようだが、予想するに捕まった構成員の解放か、あるいは組織を再度強固にするための武器やカネといったところだろう。
こちらからすれば逆恨みもいいところだが、人質にされた無関係な官僚たちを放っておくことはできない。彼らの命を易々と奪わせるわけにはいかない。多くの人質の命を救う(ゲーム的には半数以上の人質を救う)のが、俺の役目だ。
これが俺の初仕事。だが、多くの人の命がかかった仕事だ。失敗するわけにはいかない——俺は緊張しながらも犯人へと電話を繋ぐ。さあ、神経をすり減らす真剣勝負のはじまりだ。
「キミがアルケインか? 俺は交渉人のもっぷだ。キミと話をするためにここにいる」
「もっぷだぁ? ふざけた名前の交渉人だな。まともに話できるのか?」
……まさか名前をどうこう言われるとは思わなかったが、声を聞く限りではそこまで冷静さを欠いた状況ではなさそうだ。まずは軽い会話で、これからの話のタネ(会話ポイント)を手に入れていくとしよう。
「ちょっと話をしようか。キミに家族はいるか? 私には妻がいてね……」
「部下を捕まえておいて何が家族だ。ふざけた名前の野郎とそんなつまらない話をする気はねえ!」(ガチャン)
うぐ、早速失敗してしまったか。電話を切られて(説得フェイズが強制終了して)しまった。やっぱり名前がダメだったのだろうか……。仕方ない、再度電話を繋げる前に一度次の会話を計画しよう。
今みたいな失敗を防ぐためにも、「そんなつもりじゃない」と言えるようにしておこう。
さて、少し間が空いたがアルケインの様子に変化(イベント)はあるか……?
むむ、さっきの会話が頭に来たのか、感情が昂ってるようだ。これ以上怒りが増えるとまともに話を聞いてもらえなく(ダイスが1個しか振れなく)なりかねないし、人質を殺してしまうかもしれない。
そうはさせてはいけない、と俺は再び電話を取り、アルケインの説得を始めた——。
「アルケイン、落ち着くんだ。さっきは俺が悪かったよ」
「とにかくまずは落ち着いてくれ。冷静に話をしようじゃないか」
「何度も言うんじゃねえ! 俺が冷静じゃないって言うのか!」
「ま、待て、そんなつもりじゃないんだ。冷静に話をしないと我々のどちらも損をするだけだと言いたいんだ」
「……チッ、まあわかったよ」
ふう、だいぶ話(カード)を使ってしまったが、落ち着かせることには成功したようだ。準備してた「そんなつもりじゃない」という言葉も上手く使えた。
よし、今度こそ話のタネ(会話ポイント)を集めるべく会話を続けよう。
「まずは話をしようじゃないか。キミのことも聞かせてくれないか」
今度は電話を切られることもなく少しは話を聞いてくれた。だが、ここで俺の頭の中の話(手札)が尽きてしまった。電話を続けつつ、俺は頭の中で次の会話の計画を練り始めた。
さっきの会話で手に入れた話のタネ(会話ポイント)で相手を落ち着かせる会話が思いついた(『そんなにカッカするなよ』のカード)。これで落ち着かせつつ話を続けるとしよう。
——そう頭の中で次の計画を立て終わった時、電話の向こうで異変(イベント)が起きた。
「——急に黙りやがって。要求も聞かないで無駄話ばかりしてるのは時間稼ぎのつもりか?」
「い、いや。そんなつもりはない!」
「俺の堪忍袋の緒は短いんだ。時間稼ぎはできねえってこと、まずはテメエに教えてやるよ」
〝パン〟——電話の向こうで銃声と悲鳴が聞こえた。人質の一人が殺されてしまったようだ。
一人救えなかった……だが、ここで焦れば他の人質の命も危ない。俺は自分を落ち着かせ、アルケインの説得を続けた。
とはいえ、今は交渉のネタ(手札)も少ない。要求を聞きたいところだが今はそんな雰囲気でもなさそうだ(←さっき要求を聞くカードを捨て札にしたため手札に無い)。一度時間稼ぎの会話をしつつ、再度今後の会話を計画しよう。
「……残念だよアルケイン。だが、キミの言いたいことはわかった。今一度交渉をさせてくれ」
なんとか会話を繋ぎながら次の計画を練る。アルケインは一応話は聞いてくれているが、時間が長くなると変化(イベント)が起き始めた。
「……さっきも言ったよな? 要求も聞かずに無駄話してる暇はねえってよ。そうしてるとどうなるかもう一度教えてやろうか?」
ま、まずい。かなり感情が高まってしまったようだ。これ以上怒らせれば再び人質を殺しかねない。ここで一気に説得に入らなければ。
要求を聞きたいところだが、今オウム返しのように聞いてもまともに答えてくれる可能性は低い上に相手の神経を逆撫でしかねない(←今はダイスが1個しか振れない&要求を聞くカードは失敗で感情レベルが高まる)。一度落ち着かせてから、こちらのペースで聞きたいところだ。
「それはわかっているよアルケイン。だが、こういう交渉は冷静にするものだろう? 俺はキミが同じ愚を二度も犯すことはないと信じてるよ」
「……ふん、いいだろう。まともに交渉したいというなら話を聞いてやろう」
よし、危ないところだったがなんとか話を聞いてもらえる(ダイスを2個振れる)状況になった。今こそアルケインの要求を聞こう。
「単刀直入に聞かせてもらおう。キミの要求はなんだ? 目的を聞かせてくれ」
「武器だ。大量の武器を用意しろ。そうすれば人質の解放も考えてやろう」
「わかった。その要求は伝えて準備させよう」
目的は武器だったか。弱体化した組織の強化を狙っているのだろう。受け入れれば引き換えに人質の解放も狙えるが……当然これだけで全員は無理だな。逃走手段も要求してくるはずだ。それに、一時的に落ち着いても武器を手にすれば感情も昂りやすくなる。
交渉のカードにはなるので準備はしてもらうが……実際に受け入れるには危機管理官の説得(会話ポイントの消費)も必要になるな。犯人と同時に上司も説得しなきゃいけないのがこの仕事の辛いところだ。
とりあえず一つ目の要求は聞けたことだし、一旦落ち着かせて会話の主導権を握っていくとしよう。
「要求はわかった。だが、性急に事を運ぶのはやめた方がいい。ここで人質を殺したりすれば賭けは終わりになる。そんなにカッカしないでくれよ?」
「はあ? 俺がいつカッカしたっていうんだ? バカにしてんのかコラァ!」
「ま、待て。そんなつもりじゃ——」
「うるせえ!」(ガチャン、ツー、ツー)
……落ち着かせるつもりが、むしろ怒らせた(感情レベルが上がった)上に電話を切られて(説得フェイズが強制終了して)しまった。二度も言い直そうとしたのも空振りだ。まあよく考えれば何も言われてないところでこっちから「性急に事を運ぶな」「カッカしないでくれ」なんて言ったら怒るか。
ひとまず次の会話を計画しよう。だんだんタイムリミット(イベントカードの残り)も少なくなってきた気がするし、リスクはあるが一気に会話を進めて(会話ポイントを集めて)突破口を探ることにしよう。
——と、ここでアルケインから電話がかかってきた。嫌な予感(イベント)がするが、ここで出ないわけにはいかない。俺は電話を取った。
「アルケインか? さっきはキミから電話を切ったのに、キミから電話してくるとは珍しいな。何かあったのか?」
「もっぷだな。お前にいい事を教えてやろうと思ってな」
「本当にいい事ならぜひ教えて欲しいところだな」
「さっき建物の中に隠れてた職員を二人見つけてな。そいつらも人質にしてやったよ。まだ殺してないから安心しな。どうだ、いい話だろう?」
(増えた人質)
「……そうか。確かに、キミが性急に人質を殺さないことがわかったのはいい事だな」
「性急に殺さないかどうかは今後のお前の話次第だよ」
くっ、まだ誰も解放できていないところで人質が増えてしまうとは。これで監禁場所にいるのは8人か……。時間が減ってきたところで救うべき人数が増えてしまった(ゲーム的にはクリア条件の半数が4人→5人になった)のは不利な交渉を強いられかねない。アルケインにはああ言ったが、完全にバッドニュースだ。
だが、文句も言ってられない。俺は次の説得(フェイズ)に臨むことにした。
逃走手段の要求も聞き出したいところだが、立て続けに聞いてこっちが焦ってると思われるわけにもいかない(←実際にはさっき捨て札にしていて手札に無いだけ)。ここは予定通り会話を進めて(会話ポイントを集めて)、一度突破口を探ろう。
「要求はわかったが、流石に準備に少し時間が必要なことはキミにもわかるだろう? ちょっと話でもしてようじゃないか」
「——そうか。アルケイン、キミの気持ちがわかってきたよ」
「それはよかった。……で、いつまで時間稼ぎをするつもりだ? 話が無いなら切るぞ?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! キミも話を続けないと交渉はできないだろう?」
「チッ。——だが、さっさと話を進めないとまた犠牲が出ることになるぞ?」
何とか会話は続けられた(5点の会話ポイントは集められた)が、さすがに苛立たせてしまったようだ。これ以上は本当に人質を殺しかねないな……。
俺は即座に頭の中で次の会話を計画する。助けるべき人質も増えた今、少しずつ解放させていくのは時間的に無理がありそうだ。時間が延びてきてこっちに焦りが出てきたが……それはあっちも同じだろう。いざという時に強引にでも交渉を押し進められるよう、建物に入って直接話をすることも考えておこう。
そう頭の中で計画し終わったところで、電話の向こうのアルケインが思いついたように話(イベント)を出してきた。
「チッ、お前が長話をするせいで俺も人質も腹が減ってきちまった。食料でも持ってこいよ」
「食料だと? ……わかった、追加の要求として準備はさせよう」
突然の要求だが、説得の材料にはなるな。話を切られそうになっても、いざとなれば食料をエサにして話を続けることができそうだ。
さて、説得の続きだ。逃走手段の要求を聞きたいが、今はかなり感情が昂っていて(感情レベルK)交渉は難しいだろう。先に落ち着かせるとしよう。
「アルケイン、交渉を進めたいところだが……少し気が立ってるのではないか? 一度落ち着いて欲しい」
「お前が無駄話ばかりしてるからだろう!」
「それはすまないと思っている。ただ、今言いたいのは冷静さを欠いた状況ではお互い良い交渉はできない、ということだ」
「……癪に障る言い方だが、まあいいだろう。わかったよ」
ふう、一度は失敗したが何とか少し落ち着かせることに成功したか。これなら交渉もしやすい(ダイスが2個振れる)。今こそ逃走手段の要求を聞くとしよう。
「ところで、まだ要求があるんじゃないか? キミは包囲されてるんだ。まさか武器を手に入れてそのまま一人で戦うつもりじゃないだろう?」
「ああ!? 俺がお前らみたいな連中にビビるとでも思ってんのか!?」
し、しまった。失敗して怒らせてしまったようだ。せっかく落ち着かせたところだったのに逆戻りしてしまった。
また話を聞いてもらいにくい(ダイスが1個しか振れない)状況になってしまったが、これ以上落ち着かせる会話をしている暇はないな……(←カードが無いだけ)。
この状況で要求を聞いて失敗すれば人質が殺されてしまいかねない(←現在の感情レベルはK&要求を聞くカードの失敗は感情レベル悪化)が……今要求を聞けなければ後はない。ここはリスクを承知で交渉するしかない!
「アルケイン、そういうわけじゃないんだ。キミのことだ、当然ここから無事に逃げおおせる手段も要求する——そのつもりなんだろう?」
「……ふん、わかったような口を聞きやがって。だがその通りだ」
「なら、その要求も今聞かせてくれないか?」
「——現金輸送車を用意しろ。当然、金を積んだ状態でな」
なるほど、現金輸送車は防犯のため頑丈にできているので逃走にはうってつけだ。その上現金を積んだ状態にすることで逃走手段としつつ金まで手に入れようということか。武器と金の両方を手に入れる……したたかなやつだ。
「わかった。その要求も伝えよう」
これで相手の要求は聞き出せた。アルケインも要求を出し切ったことで少しは冷静に交渉を進めてくる(イベントの副次的効果が適用されない)ようになるだろう。
さて、要求を聞くことができたところで一旦頭の中を整理しなければ。次の会話を計画したいが、新しい話は思いつかないな……(←説得フェイズを終えて計画フェイズになるが、会話ポイントが-1なのでコスト0のカードを回収するだけで終了した)。
と、少し逡巡したところでアルケインがイライラした口調で声(イベント)を出してきた。
「俺の要求がわかってもらったところで、お前にもう一度教えてといてやる。これ以上時間をかけるとどうなるか、ってことをな」
〝パン〟——電話の向こうで再びの銃声と悲鳴。人質がまた一人殺された……そういうことだろう。怒りが頂点に達した彼がすることなどそれしかない。
「もっぷ、聞こえたか? お前がぐずぐずしているとこの音をもっと聞くことになるぞ?」
「……わかっているよ、アルケイン」
冷静さを装ってそう返答するが、実際のところかなりまずい状況だ。彼の怒りは頂点に達し(感情レベルK)、2人の人質が殺されたのに対して救出できた人質は未だ0人。残された時間(残りのイベントカード)も少ない。
要求が聞き出せていなければ(副次的効果で)もう一人殺されていたのは間違いないことを思えばマシだったと言えなくもないが、それでも一人の犠牲が出たことに変わりはない。
焦りは募るが、かといって今は有効な交渉ができる(手札がある)わけではない。何を言われようと、今は粘り強く会話を続けて(会話ポイントを集めて)有効な交渉の糸口(カード)を手に入れなければ……!
「要求は伝えたが、すぐに受け入れられないのはキミもわかるだろう? もう少し話を——」
「話が無いなら切るぞ」(ガチャン)
電話を切られたか。感情が昂っている今は致し方ない展開だが、こうなると厳しいな……。
会話が続かなかった(会話ポイントが1点しか集まらなかった)以上、あまり次の会話も計画できない。とりあえず交渉失敗を避けれるように考えておくか……。
——と、考えあぐねているところに警官の一人が駆け込んできて「報告(イベント)があります!」と叫んできた。
「人質の1人が解放されました!」
「何、本当か!?」
そう俺が驚いたところで電話がかかってきた。俺はすぐに電話を取った。
「よう、もっぷ。俺からのプレゼントは届いたか?」
「アルケイン。人質が1人こちらに来たよ。キミが解放してくれた——そういうことか?」
「ああ、そうだ。殺してばっかりで俺が話の通じないやつだと思われても困るからな。お前たちが要求を受け入れればちゃんとその見返りは果たすってことの意思表示だ」
「なるほど……理解したよ。キミが話の通じる相手でよかった」
なぜ突然弱気になったのかは分からないが、どんな理由にせよ人質を解放してくれたのは何よりだ。……俺の交渉が下手くそ過ぎて要求が通じてないことを危惧したとか、そういうことが頭をよぎったがきっと気のせいだろう。一人でも助かったことを素直に喜ぼう。
だが、まだ6人の人質が囚われているはずだ。彼らを救出するまで俺の仕事は終わらない。説得を再開しよう。
何度目か分からないが、まずは交渉を有利に(振れるダイスを2個に)するためにも落ち着かせるところからだ。
「アルケイン、キミが話の通じる相手なのはみんな理解してくれたよ。今一度お互い冷静になって交渉しようじゃないか」
「冷静に冷静に、ってうるせえやつだ。わかってるよ」
よし、うんざりした声ではあるが何度も繰り返したおかげで感情の昂りは抑えられたようだ。これで勢い余ってすぐに人質を殺す状況は避けられただろう。
電話口のアルケインの声が少し落ち着きを取り戻したことで安堵したのも束の間、そのままのトーンで話(イベント)を続けてきた。
「冷静に……わかってるよ、もっぷ。だが、俺の堪忍袋の緒は短いって最初に言っただろう?」
「ああ、それは聞いたが——待て、アルケイン。何を考えている?」
「俺の怒りを抑えれば人質は殺さない、そう思ってるのかもしれないが——」
〝パン〟——電話の向こうでまたもや銃声と悲鳴。
「俺は冷静でも人質を殺せる。要求を受け入れず俺を試すようなことばかり話せばこうなることはよく理解しておくことだな」
「……肝に銘じよう、アルケイン。だが、キミを試しているつもりはないよ。俺が考えているのはキミと冷静に交渉すること、それだけだ」
3人目の犠牲者が出てしまった。これ以上殺させるわけにはいかない。それに相手の焦りを見る限り、もうタイムリミットも近い(←次のイベントは危機的状況=最後のラウンドになる)。
もう説得のチャンスは少ないが救うべき人質は多い。こうなれば相手の焦りに乗じた最後のチャンス(最終ラウンド)に賭けるべく、俺は会話を続けながら(会話ポイントを集めて)ギリギリの勝負を狙うことにした。
「キミは焦れてきているのかもしれないが、こっちも何もしてないわけじゃあない。キミの要求に応えるための準備はしっかりと進んでいるよ。間違いがないようにもう一度話をしておこうじゃないか」
やつも焦りが出てきたのか、話に乗ってきている。長く会話ができた(5点の会話ポイントを集めた)ところで、俺は最後の計画として、時間稼ぎの会話(『ちょっと待ってくれ』のカード)と人質を救出するための救出部隊(『数人を救出した』のカード)を準備する。
だがその時、電話の向こうから焦れた声でアルケインが話しかけてきた。
「——もういい、お前と話をしていても埒が明かない。これ以上の交渉は無意味だ。要求が受け入れられないのなら人質を皆殺しにして逃げるまでだ」
「ま、待てアルケイン! それではキミは何も得ることなく終わることになるぞ!」
「武器を手に入れるまで籠城するつもりだったが、計画変更だ。もう煩わしい交渉をする気はない。人質を助けたいならすぐにでも要求を受け入れるんだ」
ぐっ、まさに危機的状況だ。相手が焦るギリギリのところで要求を受け入れつつ交渉を成功させていくつもりだったが、交渉をするつもりが無くなった(ダイスが1個減った)となれば一度に多くの人質を助けることが困難だろう(←成功数2以上が出せない)。
まだ5人の人質が囚われたままだ。彼らを救い出し、アルケインを確保する——かなり困難な状況だが、諦めるわけにはいかない。俺は頭をフル回転させ、頭の中で計画をしながら最後の説得に挑む覚悟を決めた。
※危機的状況が出た後の最後の説得フェイズでは、説得フェイズ中にも(計画フェイズと同じように)会話ポイントを消費して会話カードを獲得できる。
まずはまともに話ができない状況を脱するしかない。そのためにも何とか電話ではなく中に入って直接話をできる状況に持ち込みたいところだ(←『中に入って話したい』が成功すればこの説得フェイズ中に振れるダイスの数が増える)。
だが、まともに話が聞いてもらえない(ダイスが1個しか振れない)今の状況では、その交渉自体が失敗する可能性が高い。確実性を高めるためにも、俺は頭の中で素早く次の交渉を計画し、不要な言葉を捨てて必要な言葉を頭に置いた(←会話カードを捨てて会話ポイントを得て、即座にカードを獲得した)。
これで何としても直接の会話に持ち込むしかない。いざ!
「アルケイン、キミが煩わしい交渉を嫌がる気持ちはよくわかった。どうだろう、直接会って話をしないか? もちろん私だけ、武器はなしだ」
「この期に及んで直接会うだと? その隙に人質でも救うつもりか? そんな安い手に乗ると思ったら大間違いだ」
くっ、やはりそう簡単に話には乗ってこないか。だが諦めるわけにはいかない!
「そうじゃない! このままではキミも我々も損をするだけで終わってしまうと言いたいだけなんだ。電話口での煩わしいやり取りは止めて、直接腹を割って話をしたいんだ!」
何とかこれで交渉を——!
「何度も言わせるな。もう交渉をするつもりはない。お前ができるのは人質を救うため俺の要求を受け入れるか、人質を見捨てて要求を蹴るかのどちらかだけだ」
……ダメだったか。これで交渉だけで全てを救っていく可能性はほぼ潰えた。
だが、それでも諦めるわけにはいかない。俺は頭をフル回転させ、わずかな望みを探す。救うべき人質は残り5人。残りわずかな時間でこれを救い、犯人を確保、または射殺する手段は何かないのか——。
そして、わずかな望みを賭ける手段を思いついた。警察の突入部隊(『突入しろ!』のカード)だ。あの突入部隊なら上手くいけば(成功数2以上なら)4人の人質を救い、そのまま犯人の射殺までできるだろう。現在の人質は5人だが、突入の前に武器の要求を受け入れた見返りに人質を1人解放させておけば、そのまま突入部隊で残りの人質を救出、犯人を射殺して事件解決とできるはずだ。
突入部隊はまだ配置できていない上に、警戒された今の状況では突入できたとしても犯人の射殺までできる可能性は無きに等しいが——やつの逃走手段の要求を受け入れたタイミングなら、現金輸送車を渡すと同時に突入部隊を送り人質を救い、犯人を射殺できる可能性はある。
※上記のセリフのゲーム的な説明:この時点で『突入しろ!』のカード(コスト8)は手札に無い上に、危機的状況『計画の変更』の効果でダイスが1個しか振れないため、成功数2以上の「人質4人救出&犯人の射殺」を出すことは不可能。しかし、『逃走手段:現金輸送車』の要求を受け入れた時の効果は「ノーコストで任意の会話カードを手札に入れる&次の交渉ロールのダイスに+1個」。この効果で『突入しろ!』のカードを取得し、そのままプレイすればダイスを2個振ることができ、成功数2を出せる可能性がある。現在の監禁場所の人質5人に対して、まず『主目的:武器の供給』の要求を受け入れて人質を1人解放させた上で『突入しろ!』の成功数2以上「人質4人救出&犯人の射殺」ができれば、監禁場所の人質0&半数以上の人質を救出成功(この場合9人中6人救出)&犯人の射殺ができたことになり、ゲームクリアとなる。
ただし、1枚の要求カードを受け入れるには4点の会話ポイントが必要となるため、主目的と逃走手段の両方を受け入れるには8点の会話ポイントが必要となるのだが、現在の会話ポイントは0点だ。
——だが、この手段を実行するには一度アルケインの要求を全て受け入れなくてはならない。そのためには上司である危機管理官の説得(計8点の会話ポイントの消費)が必要だ。何とかそれまでアルケインが暴挙に走らぬよう、会話を続けて時間を(会話ポイントを)稼がなければ……!
「アルケイン、人質の命は何より大事だ。俺はキミの要求を受け入れようと思う。だからもう少しだけ辛抱してくれないか?」
「……本当だろうな? 嘘だったら承知しないぞ」
「もちろん本当だとも。信用してくれ」
よし、何とか話を繋いだ(+2会話ポイント)。このままもう少し時間を(あと6会話ポイントを)稼ぐんだ!
「キミだって無駄に人質を殺したくはないだろう? 部下を捕らえられて怒りを覚える男だ。人情を持ち合わせてないわけじゃないと俺は思っている」
「——なんだ、露骨な時間稼ぎだな? 要求が受け入れられないなら切るぞ」
しまった、失敗した! ここで電話を切られたら(説得フェイズが強制終了したら)ゲームオーバーだぞ!?
……そうだ!
「ま、待て! そう言えば食料が欲しいと言っていたな? 武器と現金輸送車はもう少し時間がかかるが、まずは食料を渡す。これで要求を受け入れる気があることを示させてくれ」
「……ふん、要求を受け入れる気があるのかはまだ信用できないが、食料は受け取ってやろう」
「ありがとう。すぐに仲間に送らせる」
俺はすぐに準備していた食料を運ばせた。これで何とか電話は切らさずに——。
「それで十分か? なら話は終わりに——」
ダメだ! まだ時間稼ぎ(会話ポイント)は十分じゃない! 無理やりにでも引き留める!
「ちょっと待ってくれ! ここで話を終えられたら、要求の物を渡すことはできなくなる。アルケイン、焦らないでくれ。待ってくれさえすれば必ず要求の物は届けさせる」
「——チッ、仕方ない。もう少しだけ待ってやる。もう少しだけだ」
「ありがとう、アルケイン。このまま電話を繋いで待っててくれ。一刻も早く送るよう俺が直接掛け合ってくる。電話を切ったらこの話は無しになる。頼むぞ?」
よし、成功した! 苛立たせたようだが、ギリギリで時間を稼げた(←会話ポイントが6点になった)。
もう少しだ。俺はアルケインとの電話を繋いだまま置き、危機管理官の方を向く。犯人へ向けるはずの言葉(手札2枚)を捨て、危機管理官への言葉を頭に集める(←捨て札で+2点され、8会話ポイントに)。
「危機管理官、まず武器の要求を受け入れ、人質を一人解放させます。許可を」
「……それしか手はないんだな? いいだろう、許可する。武器を送らせろ」
危機管理官の許可を得た俺はすぐにアルケインに話をする。
「アルケイン、今武器を送る手筈が整った」
「——本当だろうな?」
「本当だ。その代わり、人質を1人解放してくれ。現金輸送車を送る前に、それくらいの誠意は見せてくれていいだろう?」
「……ふん、いいだろう。人質を2人送るから片方に武器を渡せ。1人はそのまま解放してやる。もし武器ともう1人の人質のどちらかでも返ってこなかったら残りの人質は皆殺しだ」
「わかった。言う通りにしよう」
アルケインの言う通りに武器の引き渡しは終わり、1人の人質が解放された。武器は渡ってしまったが、これで残りの人質は4人になった。
「アルケイン、武器と人質はちゃんと返ってきたか?」
「……ああ、今返ってきた。武器も言った通りの量を用意したようだな」
「もちろんだ。言っただろう? キミの要求を受け入れると」
「信用ならない言い方だな。まあいい」
口ではそう言うが、要求が通ったことで明らかに気が緩んでいるのが電話越しでもわかる。何とか第一段階は完了だ。
さあ、次が最後の勝負だ。逃走手段——現金輸送車を送り、それと同時に突入部隊を送り込み、人質を救出、アルケインを射殺する。俺は再び危機管理官へと声をかける。
「危機管理官。現金輸送車と突入部隊の用意はできましたか?」
「それはできている。……だが、これでもしアルケインを取り逃がすことがあれば、やつは大量の武器と金を手に入れて逃げることになる。それでまたやつのテロ組織が拡大することは絶対に避けなければならない。——それでもやるのか?」
「——やります。人質を救うには、これしかありません」
「……わかった。現金輸送車の引き渡しを許可する」
許可をもらった俺は、すぐにアルケインとの話に戻る。
「アルケイン、現金輸送車を引き渡す手筈も整った。今からそちらに送る」
「いいだろう。だが、妙な真似はするなよ? 少しでも変なことをすれば人質の命はないと思え」
「わかっているよ。その代わり、何も無ければ人質の命は脅かさないと保証してくれ」
「ふん、いいだろう。どちらにせよ現金輸送車が届けばそのまま逃げるだけだからな」
そうして電話を繋いだまま、俺は現金輸送車と共に隠れて移動する突入部隊を確認する。
これが最後のチャンスだ。この突入で大成功(成功数2以上)すればアルケインを取り逃がすことなく事件は解決できるはずだ。
あとは突入の合図だけ。俺はアルケインと会話を続けながら、電話の奥の様子を探り、その瞬間を待つ。
「——どうだ、アルケイン。そろそろ届いた頃だと思うのだが」
「ちょっと待て。……前から音はするな。確認するから少し待——」
瞬間、俺は電話をミュートにして無線に叫ぶ。
「今だ! 突入しろ!!」
電話の向こうで大きな音が響き、多数の銃声が響く。
「くそっ、もっぷめ、騙しやがったな!?」
電話の遠くでそんな声が聞こえる。あとは成功を祈るだけだ——。
すぐに突入部隊からの報告が飛んでくる。
「報告! 人質3名は救出、しかし犯人は人質1名を盾に応戦、そのまま激昂した様子で人質を殺害して逃亡!」
「な——!」
——取り逃がした! さらに1人の犠牲が出ただと!(←感情レベル5から3上昇したことでKから1オーバーした)
もう突入部隊では追い付かない。5人の人質(9人の半数以上)は救えたが、このままやつに逃げられれば、新たなテロ組織がもっと甚大な被害を及ぼすだろう。
俺は判断を間違ったのか? もうゲームオーバーなのか? もうできることは——。
——ある! 人質を救出するための救出部隊(『数人を救出した』カード)が残っている! これでやつを確保できる可能性が、まだある!
※監禁場所に人質がいない状態で人質救出の効果が出た場合は犯人を確保できる。
これが最後(の手札)だ。激昂し武器を持ったやつを確保できる確率は低い(←振れるダイスは1個&手札が無いので5か6の成功のみ)。だが……やるしかない!
「救出部隊! アルケインを確保するんだ!」
頼む、成功してくれ——!
「こちら救出部隊! アルケインを確保しました!」
「よっしゃあああああ!!」
——こうして、長い人質事件は幕を閉じた。4人の人質が犠牲となったが、5人の人質が救出され、アルケインは確保された。
人が慌ただしく動く中、危機管理官が声をかけてきた。
「もっぷ、よくやった。仕事は果たしたな」
「ありがとうございます。……しかし、全員は救えませんでした」
「確かに、完璧ではないかもしれない。だが、お前の働きで5人の命が救われたんだ。この交渉は、お前の勝利だよ」
そう言って、危機管理官は仕事に戻る。残された俺はポツリと呟いた。
「……ゲームクリア、か」
プレイ後の感想
クリアできたぞー!
……あ、すいません、大きな声を出して。嬉しかったもので。
初プレイで何とかクリアできました! まあ、プレイレポートに書いた通りめちゃくちゃギリギリでしたけどね……!
さて、ゲームをプレイした感触としては「細かいことはわからないけど、息詰まる交渉をしてる気分にはなれる」という感じでしょうか。私が交渉人というテーマが好きだからというのもありますが、プレイレポートに書いた妄想のやり取りの大半は実際にプレイしている最中に頭に浮かんでいたものです。(多少肉付けした部分はありますが)
犯人の感情が昂ぶればダイスが減ってままならなくなる交渉、怒りで殺害される人質、時間経過のイベントによって変化する状況……本物の交渉人はどうなのかわかりませんが、ドラマや映画でイメージする交渉人の姿がそこにあります。こうしたテーマがお好きならきっと楽しい時間が過ごせると思います。
そんな緊迫したテーマとは裏腹に、ゲーム的にはかなりダイス運の要素が強いです。各ダイスで失敗する確率は通常なら2/3、捨てれるカードがあっても1/2は失敗です。会話ポイントは毎回リセットされるので、貯めておいて一気に使うこともできませんし、何とか手に入れた高コストカードも失敗に終わる可能性は常にあります。どんなに綿密な計画を組もうとダメな時はダメですし、逆に適当にやってても運が良ければ簡単に勝てると思います。
こうしたダイス運に振り回される感じはテーマには適していると思うのでいいと思いますが、そうしたゲーム性が好みじゃない人には辛いかもしれません。
ただ、一人用ゲームですし1プレイは短時間で遊べますので、一度や二度の失敗は気にせずに何度も挑戦して、雰囲気に浸りながら出目の良し悪しに一喜一憂するのがオススメの楽しみ方ですね。
今回は一番シンプルな犯人のアルケイン・マソーを遊びましたが、他にも特殊ルールが付いた個性豊かな犯人があと二人収録されています。会話カードは共通ですが、イベントや逃走手段はランダムですし、主目的の要求は犯人ごとに異なるものが数種類ずつ用意されています。私もまだ一回しか遊んでいませんが、遊べば毎回違った展開が楽しめることでしょう。
ついでに、ルールブックの最後には『交渉成功度判定』という、いわゆる実績システムが載ってます。「3回の事件を連続で解決した」や「1ラウンド中に人質を5人以上救出した」、「人質を1人も殺害させることなくゲームに勝利した」といったやり込み要素もありますので、単純にクリアを目指す以外の遊び方(目標)もありますよ。
日本語版は2020年に出たばかりですが、オリジナルは2015年に発売され、その後現在までに新たな犯人など多数の拡張版が出ているようです。拡張版も日本語化されるといいですね。
と、いうわけで『ザ・ネゴシエーター ~人質交渉人~ 完全日本語版』のプレイ感想でした! 皆さんも犯人との息詰まる勝負を楽しんでくださいね!
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